Citrusia

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DQ6 サヨナラ

【1】

 夢の世界は、いずれ消え去る。
 そう聞いた時に自分がどんな顔をしていたのか、あまり思い出したくはなかった。

「……消え去る、かぁ」
 グランマーズの館で御馳走をいただいてから満腹で眠ってしまった仲間達を置いて、バーバラは一人夜空の下を歩いていた。デスタムーアが倒されたせいなのか魔物たちの邪気も抜け、こちらに襲いかかってくる気配は全くなかった。
 夢の世界のライフコッドのように、もしかしたら自分も、寝て起きたら消えているかもしれない。そんなことを考えてしまってから、バーバラは眠りにつくのが少しだけ怖くなっている。
「もう会えなくなっちゃうのかな、みんなと」
 思わず声に出したら、急に不安になってきた。仲間達は皆現実の世界の人間で、自分だけが夢の世界の人間。バーバラはこの世界にとって、異質な存在なのだ。
 消えてしまえば、会うことも喋ることも出来ない。もしかしたら存在自体がみんなの記憶から消されて、無かったことにされてしまうのかもしれない。いつ消えてしまうかもしれないこの状況の中で、明日もいつもどおりに明るく振る舞えるかどうか少し心配だった。



「……今のうちに、みんなにお別れ言わなくちゃ」
 それぞれに伝えるべきか、それともみんなの前で一度に伝えてしまうか、どうしようかな。そう考えながらマーズの館へ戻りかけた時、近くの茂みがガサガサと不穏な音を立てた。
(モンスター……よね、やっぱ)
 この辺りの敵なら魔法を使うまでもない。魔王を倒した後に使うことはまずないだろうと思っていたが、一応腰に携えたグリンガムの鞭に手をかける。
「お、いたいた」
「へ?」
 緊張していた掌が、のんきなその声で緩んだ。茂みから出てきたのは、見慣れた大男だ。
「全く、どこ行ってたんだ?こんな夜遅くに」
「えへへー、ちょっと散歩。なんだか寝付けなくって」
「いくら凶暴な魔物がいなくなったっつっても、夜更かしは感心しないな」
「わーハッサン、その言い方大人みたーい」
「大人だっつの」
 コツン、と軽く拳骨を喰らって、バーバラは笑って少し舌を出した。
「ハッサンはどうしてここに?さっきまで大いびきかいて寝てたじゃん」
「あー、ミレーユに起こされたんだ。バーバラがいないから探すの手伝ってくれ、だと」
「そっか……心配かけちゃったよね」
「そうだぞ、あとでちゃんと謝っとけ?」
 ごめんごめん、と茶化すように言うと、ハッサンは無言でバーバラの頭を大きな手でわしわしと撫でまわした。
「……?」
「……もしかしたら、ホントに消えたんじゃないかと思ったんだからな」
 目が少しだけ怒っている。確かに、今のバーバラの状態で出歩くのは、冗談ではすまされないことだ。
 ごめん、ともう一度謝って、バーバラは言葉を続ける。
「もうみんな、気付いてるんだね。あたしがいなくなるってこと」
「……まぁ、アイツを除いて、な」
「やっぱねー」
 そう言ってクスクスと笑う。アイツ、というのはもちろん、世界の危機を救ったヒーローで、レイドック王国王位継承位第一位の、例の天然王子のことだ。
「“夢でも現実でも、ターニアはターニアだからね!”だと。呑気なこって」
「ま、アイツらしいっていえばアイツらしいんだけどね」
 並んでため息をつくと、今度はハッサンが出てきたのと反対の方の茂みからガサガサと音がした。出てきたミレーユの髪の毛に、何枚か葉っぱが絡んでいる。
「ごめんミレーユ、心配かけちゃって」
「いいのよ、そんなの。見つかってよかったわ」
「おおミレーユ、家出娘を確保したぜ」
「うふふ、ありがとうハッサン」
 優雅に微笑むその姿は、旅の当初から変わっていない。バーバラは、見惚れるほどに美しく呆れるほどに優しい彼女が大好きだった。
「あんまり遠くに行ってはダメよ。……最後の時までは、傍にいて頂戴ね」
 そう言うと、ミレーユはそっとバーバラを抱きしめた。
「ミレーユ……?」
「……ごめんなさい。カルベローナの話を聞いてから、ずっとわかっていたはずなのに」
 ミレーユの声が少し震えている。思わずバーバラは彼女を抱きしめ返した。
 “カルベローナは二度滅ぼされた”と言われているように、現実世界のカルベローナは焼き尽くされて跡形もない。バーバラの体も勿論燃えてなくなっているはずだ。器のなくなった魂だけの存在が、いつまでも平然とこの世界にとどまり続けられるはずがない。
「ミレーユは何にも悪くないよ。悪いのはあのデスタムーアで」
「それでも、私の覚悟が足りなかったのは本当のこと。信じたくなかったの、あなたがいなくなってしまうなんて……」
 ぎゅう、と腕の力が強くなる。同時に首筋が湿った。ミレーユの涙なのだろうか。
「ねえ、ミレーユ」
「何?」
「ありがとね。あたし、ミレーユのこと大好きだよ」
「うふ。私も大好きよ、バーバラ」
 こちらにむかって微笑んだその顔は、涙でゆがんでいる。それなのに美しく見えるミレーユに羨望を覚えながら笑顔を返した。
 すると、横から不服そうな声が聞こえてきた。
「何だよ、じゃあ俺のことは好きじゃねえってのか」
「あ、ごめんハッサン」
 抱き合う二人の傍で、彼は一人蚊帳の外でむくれていたらしい。
「ハッサンも好きだよ、それなりに」
「それなりにかよ!」
 素直に言ってやるのはなんとなく悔しくて、取り繕うふりをする。しかしさらに彼の機嫌を損ねてしまいそうだったので、やはり素直に伝えることにした。
「うーそ。ハッサンのことも大好き」
「よしよし、それでこそ仲間ってもんよ」
 それで満足したらしく、ハッサンはバーバラの頭を再び撫でまわす。普段より長く撫でてくれているのは、名残を惜しんでいるからなのだろうか。
 少し乱れた髪を直していたら、ミレーユがいたずらっぽく微笑んだ。
「あらあら、なあにハッサン。さっそく浮気?」
「え゛」
「それともこの前聞いた愛の言葉は嘘だったのかしら?」
「いや、ちょっ……!!」
「何それー。ハッサンやっと告白したの?」
「や、やっと、ってお前!!」
「そうよ、指輪と一緒に。彼らしくストレートにね。“ずっと前から好……」
「うわーーー!!待て待て、よせって!!」
「へぇ、結構陳腐なセリフだったのね」
「うるせーほっとけ!!!」
「飾り立てたのよりはマシかも。それじゃハッサンっぽくないし」
「そうねぇ。まあでも、私の方がもっと前から好きだったけれどね」
「え゛」
 当然このあと、硬直しきったハッサンが2人にからかい倒されるのは言うまでもなく。



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