Citrusia

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DQ8 手当て

【1】

 オディロ院長の死から、丁度一週間。マイエラ修道院を追い出されてから、不気味な緑色のバケモンを王と崇める奇妙な三人組と旅を初めて、それなりに日も経った。
 一晩お世話になった道沿いの教会を後にして、二、三時間は経っただろうか。もう日が高い。
「うぐぅッッ!……痛いわ、ククール」
「こらえるにしたってもーちょい可愛い悲鳴あげられないもんかね、ゼシカ嬢」
「うるっさい!早く治してってば!」
 俺達四人(と一匹と一頭)は草原にて昼の休憩中。俺は果敢に敵に突っ込んでいくゼシカの傷を念入りに治療してあげているところだ。ちょっとでも触れたら燃やす、と脅されているのでガーゼとピンセットで丁寧に消毒液を塗り込む。
 モンスターに切り付けられた肩の傷を眺めて、ゼシカが首を傾げる。
「ねぇ、戦闘中みたいに回復呪文でパパッと治さないの?」
「汚れを取り除いたり消毒したりしたほうが、痕が残りにくいんだよ。ちょっとでも綺麗な状態に治したいだろ?」
 レディの体は大切に扱うもんだぜ、とおどけてウィンクすると、心底気味悪そうな顔でそっぽを向かれた。傷付く。





 トロデ王がバケツを持って走ってくるのが見える。どうやらミーティア姫のために水を汲んで来たらしい。馬車の側で荷物の確認をしていたエイトがテキパキと水桶の準備をし始めた。
 姫さんが水を飲んだらもう出発だろうな、とアタリをつけて、傍らに置いておいた弓を背負う。ちなみにこれは、ちょうど遠距離攻撃が出来る人が欲しかったんだー、と嬉々としてエイトに渡されたものだ。そのため俺は、敵から離れた安全地でちまちま攻撃しながら回復、などという地味な役回りを任されている。俺らしからぬ配役だね、全く。
 消毒の後にかけたホイミの効き具合を確かめるように、ゼシカがぐるんぐるんと肩を回す。
「さすが、“元”聖堂騎士団は優秀ね」
「そんな嫌味も可愛いぜ、ゼシカ」
「……レディを大事にするのは見上げた姿勢だけど。差別はよくないわよ」
「野郎に優しくしたって何にも得しないだろ」
「そういうこと言ってるんじゃないわ」
「じゃあ何か?“あたしだけに優しくして”ってか、随分と甘え上手なこって」
「……あんたねぇッ!もう、あたしが言いたいのは、」
「兄貴のこと、だろ?ゼシカの姉ちゃん」
 ぬっ、と突然割り込んできたのはヤンガスだ。いつのまにか大量の草やら花やら木の実やらを抱えている。
「おかえり、ヤンガス。今までどこに行ってたの?」
「ちょいとそこの丘まで、な。この辺は人通りが無いからもしや、と思ったら大当たりでがす。まだ誰も手を付けてない野生の薬草がごっそり」
 野性児かよ、とツッコみかけたが、よくみると市販の薬草のセットにはなかなか使われないような薬効の高い物がいくつも見られる。粗雑で乱暴そうな見た目とは裏腹に、自然の知識は豊富らしい。俺が感心しているのが伝わったのか、ヤンガスは自慢げに胸を張った。
「ふふん。もっと尊敬してくれてもいいでがすよ、ククールの兄ちゃん」
「はいはい、すげーすげー。ヤンガス先輩マジリスペクトー」
「……その尊敬の仕方は寂しくなるからやめてくれい」
 ヘコむヤンガスに悪戯っぽく笑みを返してから、興味深げに野草を突っつくゼシカに向きなおる。
「で?エイトの奴が何だって?」
「ああ、そうだったわ。……っていうか“何だって”ってどういうことよ」
「もしかして自覚ねぇのかい?あちゃー、こりゃ重症でがすよ」
 二人して顔を見合わせて溜息をついている。何だよ、何に呆れてんだよ。
「あれだけエイトのこと避けておいて、よくそんなこと言えたもんね」
「ああ、そのキョトンとした顔。完全に自覚なしでがすね」
「……別に、避けてなんか」
 無い、と言い切れなかったのは、思い当たる節が何もなくて驚いたからじゃない。
 むしろありすぎて困るくらいだ。
「みんな!」
 突然後ろから声を掛けられて、体がビクンと跳ねる。
「そろそろ出よっか。姫様も体力回復されたみたいだし」
 噂されているとも知らずに、エイトは普段通りニッコリと微笑む。気まずさで身動きの取れない俺に変わって、ゼシカとヤンガスがスタスタと歩き出した。
「そうね。今日中にあの山を越えられるといいけど」
「うーん、どうかな。越えるのは厳しそうだよ」
「じゃあ山のてっぺんを目指しやしょう!今夜のキャンプは見晴らしがいいでがすよ、兄貴!」
「あはは、じゃあ目標に向かって頑張ろっか」
 仲良さそうに歩き出す三人の後ろについて歩いていると、不意にエイトがこちらに振り返った。
「どうかした?」
「え」
 とっさに聞かれて反応に困る。
 まさか、“俺がお前の事避けてるの、気付いてたのか?”だなんて聞けるはずもないし。
「……別に、何もないけど」
「そう?視線を感じたからククールかと思ったのに」
「気のせいだろ。ほら、行こうぜ」
 そう言って俺は少し足を速め、そそくさとエイトから離れる。先を歩いていた二人に追いつくと、両側からコソコソ耳打ちをされた。
(無自覚で理由もなく避けてたんだったら、ちょっとは歩み寄ろうとしなさいよッ!)
(あれで結構ヘコんでんだ、兄貴。顔には全然出てねぇがな)
(……わーかったよ、善処しまーす)
 やる気の感じられない俺の返事に業を煮やしたゼシカが、脇腹にドスッと拳を入れた。そんなか細い腕のどこにそんな力があるのやら、あまりの痛みにしばらく地面に悶え転がったのは言うまでもない。



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